SaaS(Software as a Service)は、月々の支払額が低く抑えられ、導入のハードルが低いこと、ツール導入によって業務効率化や業績向上が望めることなどから、多くの企業で様々なSaaSが導入されています。
ただ、海外だけでなく国産SaaSもどんどん増えており、SaaS企業が競争優位を確立するためには、従来とは異なる独自のマーケティングアプローチが不可欠です。
本記事では、SaaSマーケティングの戦略や具体的な施策、よくある失敗とその対策などを紹介します。
SaaSのマーケティング活動の役割や、従来のマーケティング活動との違いを紹介します。
SaaSマーケティングは、単なるリード獲得だけでなく、顧客のライフサイクル全体を通じた価値提供を目的としています。具体的には以下の3つの役割を担います。
1.認知獲得とリード創出
潜在顧客にサービスの存在と価値を認識してもらい、興味を持ってもらうための活動です。SEO、コンテンツマーケティング、広告などを通じて、ターゲット市場におけるブランド認知度を高めます。
2.リード育成と商談創出
獲得したリードに対して、メールマーケティングやウェビナーなどを通じて継続的に情報を提供し、購買意欲を高めていきます。SaaSの場合、無料トライアルやデモを活用した体験型のリード育成が効果的です。
3.顧客定着とアップセル
SaaSビジネスの特性上、契約後の顧客維持とアップセル・クロスセルがLTV(顧客生涯価値)の最大化に直結します。オンボーディング支援、活用促進、新機能の紹介など、カスタマーサクセスと連携した活動が重要になります。
従来型のマーケティングとSaaSマーケティングには、以下のような本質的な違いがあります。
収益モデルの違い
従来型ビジネスでは、初回購入時に収益の大部分を獲得します。一方、SaaSはサブスクリプションモデルであり、契約後も継続的に収益を生み出すため、長期的な顧客関係の構築が不可欠です。
販売プロセスの違い
SaaSでは、無料トライアルやフリーミアムモデルを活用した「プロダクト主導の成長(PLG)」を導入する企業も多くあります。顧客は購入前に実際のプロダクトを体験できるため、マーケティングと製品体験が密接に結びついています。
KPI・指標の違い
従来型では売上や新規顧客数が重要指標でしたが、SaaSではMRR(月次経常収益)、ARR(年間経常収益)、チャーンレート(解約率)、LTV/CAC比率など、継続性と収益性を測る指標が中心になります。
顧客タッチポイントの違い
SaaSでは、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスの各部門が顧客ライフサイクル全体で連携する必要があります。契約後もマーケティングが顧客エンゲージメントに関与し続けることが特徴です。
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)
毎月定期的に得られる収益です。SaaSビジネスの健全性を測る最も基本的な指標であり、新規MRR、アップセルMRR、ダウングレードMRR、チャーンMRRに分解して分析します。
ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)
年間の経常収益で、MRRを12倍した値です。企業規模や成長率の評価、投資判断に用いられる重要な指標です。
LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)
一人の顧客が契約を開始してから解約するまでの総収益のことです。計算式は「平均顧客単価 × 平均継続期間」で、マーケティング投資額を判断する基準となります。
チャーンレート(解約率)
特定期間内に解約した顧客の割合です。月次チャーンレート1%の差が、1年後には大きな収益差となって現れるため、極めて重要な指標です。
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)
一人の顧客を獲得するためにかかったマーケティングとセールスのコストです。LTVとのバランスが重要で、一般的に「LTV/CAC > 3」が健全な状態とされています。
リード獲得数・MQL数・SQL数
マーケティング活動によって獲得したリードの総数、マーケティング適格リード(MQL)、営業適格リード(SQL)の数です。各段階の転換率を測定し、ボトルネックを特定します。
トライアル転換率
無料トライアルから有料契約への転換率です。SaaSビジネスの成長において極めて重要で、プロダクト体験とオンボーディングの質を測る指標となります。
NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度)
顧客がどの程度そのサービスを他者に推奨するかを数値化した指標です。顧客満足度と将来的なチャーンリスクを予測する先行指標として活用されます。
SaaSのマーケティング戦略の立て方の流れを紹介します。
SaaSマーケティングの目標設定は、3年後の定量的・定性的なビジョンから逆算し、年次・四半期目標(MRR成長率、チャーンレート、LTV/CACなど)にブレイクダウンします。目標は、成長フェーズ(シード、グロース、レイター)に応じて、PMF達成、効率的なスケーリング、市場シェア拡大など、重点を調整することが重要です。
すべての企業を顧客にしようとすると、メッセージが曖昧になり、誰にも刺さらないマーケティングになります。理想的なペルソナ像の設定、BtoB SaaSであれば、複数の購買関係者の洗い出しと、各々に向けたコミュニケーション戦略を立てることが重要です。
顧客が製品を知ってから契約、活用、継続に至るまでの一連のプロセスを可視化します。
製品を認知してもらってから導入・活用してもらうまで、具体的に顧客はどのような感情で、どのような行動を行うのかを想像したり、インタビューやアンケートを実施して策定します。
ターゲットやカスタマージャーニーを元に、適切なチャネルの選定、チャネルに合わせたメッセージングを行います。また、各チャネルのパフォーマンスを定期的に測定し、施策の改善、投下予算の見直しなどを行います。
SEOは、検索エンジンから継続的に質の高いトラフィックを獲得するための基本戦略です。検索行動の背後には明確な課題や情報ニーズがあるため、獲得できるリードの質が高い傾向にあります。また、一度上位表示されれば長期的に安定したトラフィックが得られ、CAC削減に大きく貢献します。
近年は、生成AIの普及により、経験・専門性・権威性・信頼性(E-E-A-T)に基づいたコンテンツの価値が一層高まっています。実体験や専門知識に基づく独自性の高いコンテンツ制作が重要です。
コンテンツマーケティングは、有益な情報提供を通じて顧客との信頼関係を構築し、購買決定に影響を与える戦略です。ブログ、ホワイトペーパー・eBookなどを活用して、導入事例業界トレンド・課題解決のヒント・ベストプラクティス・製品活用法など、ターゲット顧客が求める情報を定期的に発信します。
即効性のある施策として、Web広告は重要な役割を果たします。リスティング広告(検索連動型広告) 、ディスプレイ広告、動的リターゲティングなどが代表的な施策です。
関連記事:ランディングページ最適化(LPO)とは?効果的な手法13選とおすすめツールを紹介
SNSは、ブランド認知度の向上、コミュニティ構築、顧客とのエンゲージメント強化に活用できます。LinkedIn、X(Twitter)、Facebook広告 などを活用し、自社製品のターゲットとなる業種や役職、興味関心を持つユーザーに情報を届けます。
動画コンテンツは、製品の価値や使い方を直感的に伝える最も効果的な手段の一つです。YouTube、TikTok活用によって若年層や新しい顧客層へのアプローチに有効です。また、動画コンテンツと言っても、プロダクトデモ動画、ハウツー動画、顧客インタビュー、製品発表会、ウェビナーアーカイブなど、様々な種類がありますので、自社製品に合ったコンテンツを活用することがおすすめです。
ブランド認知度を短期間で大きく高めたい場合、マスメディアを活用した動画広告が効果的です。テレビCMであれば、特定の時間帯や番組を選ぶことで、ある程度のターゲットを絞った上で認知拡大を行えます。タクシー広告では、ビジネスパーソンへのリーチに優れており、BtoB SaaSとの親和性が高い媒体です。
獲得したリードを育成し、商談につなげるための重要な施策です。ダウンロードした資料の内容に応じて、関連性の高い情報を段階的に提供します。行動スコアリングと組み合わせ、購買意欲が高まったタイミングでセールスにパスします。
また、セグメントを業種、企業規模、行動履歴などに基づいて細かく設定することで、それぞれに最適化されたメッセージを配信することも可能です。
専門知識の提供とリード獲得を同時に実現できる効果的な施策です。製品デモ、業界トレンド解説、課題解決セミナー、顧客事例紹介など、カスタマージャーニーなどウェビナーにも様々な種類があります。ライブ配信後も録画をオンデマンドで提供することで、リード獲得ツールとして長期的に活用できます。
既存顧客からの紹介は、獲得コストが低く、質の高いリードが得られる効果的な手法です。紹介プログラムは、紹介者と被紹介者の両方にメリットがある仕組みを作ることが重要で、割引、クレジット付与、限定機能へのアクセスなど、自社サービスに適したインセンティブを設定します。
高いNPSスコアを持つ顧客は紹介意欲も高い傾向にあります。カスタマーサクセス活動と連動させ、満足度の高い顧客に積極的に紹介を促すことで、よりリード獲得にも繋がりやすくなります。
販売パートナーを通じた販売は、リーチの拡大と営業効率の向上に貢献します。コミッション構造、サポート体制、トレーニングプログラムなど、パートナーが積極的に販売したくなる仕組みを整備します。
PLAINERのようなツールを活用すれば、パートナー企業(代理店)の営業担当者が商談時に製品デモを簡単に実施できる環境を提供できます。営業資料だけでなく、体験型のコンテンツを共有することで、パートナー経由の受注率が向上します。
特定の重要顧客企業をターゲットとして、カスタマイズされたマーケティング活動を展開する手法です。売上インパクトが大きく、自社製品との適合性が高い企業をターゲットリストに選定します。各企業の課題や状況に合わせて、カスタマイズされたメッセージを作成し、Linkedinのメッセージや、手紙などの手法を通じて届けます。
事業の成長フェーズごとのSaaSのマーケティング施策の優先順位と効果的な施策内容について紹介します。
最優先事項:プロダクト・マーケット・フィット(PMF)の達成
この段階では、製品が市場のニーズに本当に応えているかを検証することが最重要です。マーケティングに大規模投資する前に、少数の顧客で確実に成果を出せることを証明します。
効果的な施策
最優先事項:再現性のある顧客獲得チャネルの確立
PMFを達成したら、効率的かつ予測可能な顧客獲得メカニズムを構築します。
効果的な施策
最優先事項:市場リーダーとしてのポジション確立
この段階では、カテゴリーリーダーとしての認知度を高め、市場シェアを拡大します。
効果的な施策
SaaSのマーケティング活動においてよくある失敗とその対策を紹介します。
「すべての企業が顧客になりうる」と考え、ターゲットを絞らずに施策を展開してしまうケースです。メッセージが誰にも刺さらず、獲得したリードも質が低くなります。セールスチームは不適格なリードの対応に時間を取られ、効率が悪化します。
対策としては、製品におけるターゲットやペルソナを明確に定義します。「誰をターゲットとしないか」を決めることも重要です。小さな市場から始めて、成功パターンを確立してから拡大します。
SEOやコンテンツマーケティングなど、長期的な施策に十分な時間を与えず、すぐに効果が出ないと判断して中止してしまうケースです。短期的な施策(広告など)だけに依存すると、CAC(顧客獲得コスト)が高止まりします。また、市場環境の変化に脆弱な構造になります。
対策としては、短期施策と長期施策をバランスよく組み合わせます。SEOやコンテンツマーケティングは、最低でも6ヶ月から1年の期間で成果を評価します。短期的なKPI(トラフィック、記事数)と長期的なKPI(オーガニック経由のCV数、LTV)の両方を設定し、段階的な成長を追跡します。
広告から顧客を獲得できているものの、獲得コストが高すぎてビジネスとして成立しないケースです。LTV(顧客生涯価値)を上回るコストで顧客を獲得すると、成長するほど赤字が拡大します。「売上は伸びているが利益が出ない」という状況に陥ります。
対策としては、まずLTVを正確に算出し、許容できるCPA(顧客獲得単価)を明確にします。理想的には「LTV > CAC × 3」の関係を目指します。ランディングページの最適化やABテストを継続的に実施し、CVRを改善します。必要に応じて、広告以外のチャネル(SEO、紹介など)の比重を高めます。
広告やSEOでトラフィックは獲得できているのに、資料請求やトライアル登録などのコンバージョンに繋がらないケースです。流入数を増やすことに注力しても、CVしなければ意味がありません。マーケティング投資の効果が最大化されず、機会損失が発生します。
対策としては、流入キーワードやチャネルとランディングページの内容に一貫性があるか確認し、ページの読み込み速度、モバイル対応、CTAの配置なども見直しましょう。PLAINERのような製品デモツールを活用し、訪問者が製品価値を具体的に理解できる体験を提供することで、CVR向上が期待できます。ヒートマップやユーザーテストで離脱ポイントを特定し、改善を重ねることも重要です。
競合との差別化ポイントが明確でなく、「機能一覧」や「汎用的なメリット」だけを訴求してしまうケースです。顧客は「なぜこのサービスを選ぶべきか」を理解できず、価格だけで比較されてしまいます。ブランド価値が構築されず、コモディティ化します。
対策としては、自社独自の価値提案(UVP: Unique Value Proposition)を明確に言語化し、「誰の、どんな課題を、どのように解決するのか」を具体的に示します。顧客事例を通じて、実際の成果やユースケースを紹介する他、製品の機能ではなく、顧客が得られる価値や変化にフォーカスしたストーリーテリングを行います。
マーケティング施策を実施しているものの、効果測定が不十分で、何が機能しているのか分からない状態です。データに基づかない意思決定になり、効果の低い施策に投資を続けてしまいます。改善サイクルが回らず、競合に遅れを取ります。
対策としては、Google AnalyticsなどのWeb解析ツールを適切に設定し、コンバージョンまでの経路を可視化します。各施策のROIを定期的に算出し、投資配分を最適化します。週次・月次でレポートを作成し、チーム全体でデータを共有し、PDCAサイクルを回します。
SaaSのマーケティング活動で活用したいツールを紹介します。
Google Analytics 4(GA4)
Webサイトのトラフィック、ユーザー行動、コンバージョンを詳細に分析できる無料ツールです。イベントベースの計測により、ユーザーのカスタマージャーニー全体を追跡できます。SaaSマーケティングでは、どのチャネルから質の高いリードが来ているかを把握するために不可欠です。
Hotjar / Microsoft Clarity
ヒートマップやセッションレコーディング機能により、ユーザーがサイト上でどのように行動しているかを視覚的に理解できます。CVRの低いページの問題点を発見し、改善につなげられます。
Salesforce
世界最大のCRMプラットフォームです。リードから商談、受注までの営業プロセス全体を管理し、マーケティングとセールスの連携を強化します。大規模な組織や複雑な営業プロセスに対応できる拡張性が特徴です。
HubSpot CRM
無料から利用できるCRMです。マーケティング、セールス、カスタマーサービスの機能が統合されており、中小企業に人気があります。直感的なUIで導入障壁が低く、スケールに応じて機能を追加できます。
HubSpot Marketing Hub
リード育成、メール配信、ランディングページ作成など、マーケティング活動を統合的に管理できるプラットフォームです。CRMとの連携により、リードから顧客までのライフサイクル全体を管理できます。
Pardot(Salesforce Account Engagement)
BtoB向けMAツールで、Salesforceとのネイティブ連携が強みです。見込み客の行動トラッキングやスコアリング機能により、営業活動の効率化に貢献します。
Ahrefs / SEMrush
競合分析、キーワードリサーチ、被リンク分析、順位トラッキングなど、SEO施策に必要な機能を網羅しています。競合がどのキーワードで流入を獲得しているかを分析し、自社のコンテンツ戦略に活かせます。
Google Search Console
Googleの公式ツールです。検索パフォーマンスの確認、インデックス状況の管理、技術的な問題の発見に活用します。無料で利用でき、SEO施策の効果測定に欠かせません。
PLAINER
ノーコードで製品デモのインタラクティブなコンテンツを作成できるツールです。マーケティングチームが開発リソースに頼ることなく、自社製品の価値を視覚的に伝えるデモを作成できます。サイト訪問者に実際の製品体験を提供することで、CVRの向上や商談化率の改善に貢献します。
関連記事:製品デモコンテンツを作成するのにおすすめの専用ツールとその特徴を紹介
今回は、SaaSマーケティングの戦略や具体的な施策、よくある失敗とその対策などを紹介しました。SaaSのマーケティングは、従来型のマーケティングとは異なる戦略とアプローチが求められます。サブスクリプションモデルという特性上、顧客獲得だけでなく、契約後の定着とアップセルまでを視野に入れた長期的な視点が不可欠です。
SaaSマーケティングは一朝一夕で成果が出るものではありませんが、正しい戦略と継続的な改善により、持続的な成長を実現できます。市場環境や顧客ニーズの変化に柔軟に対応しながら、データに基づいた意思決定を続けることが、競争優位の確立につながります。
また、SaaSやクラウドサービス等の無形商材を販売する事業者であれば、製品を体験できるデモコンテンツは、製品の価値や機能の理解促進に大きく寄与するものであるため、CACの低下が期待できます。SaaSであれば、サービスサイト、広告の遷移先のランディングページ、展示会など様々な場面でデモコンテンツが必要とされます。

PLAINERは、誰でもノーコードでソフトウェアを複製・カスタマイズしたデモコンテンツを制作し、顧客への提供とアクセス解析を可能にするサービスです。サービス開始からfreee、Chatwork、ヌーラボなどの上場企業を含め、先進的なプロダクトを持つSaaS企業を中心に導入され、作成されたデモは10万人以上のユーザーに閲覧されています。プロダクトの画面をキャプチャするだけで誰でも簡単に製品デモを制作できるので、これまで製品デモの制作や管理にかかっていた工数を大幅に削減できます。
SaaS・ソフトウェアの事業者の皆様は、ぜひサービス紹介資料をダウンロードいただくかお問い合わせください。
様々なSaaSベンダーの活用事例についてもお伝えします。